財産分与
財産分与とは
婚姻中にお互いが築いた財産を清算することです。
たとえ名義は一方の配偶者となっていても他方の協力があってのことであり、潜在的に夫婦共有財産と考えられます。
妻が職業を持っていた場合も、持っていなかった場合も同様です。
離婚原因がある側からも請求できます。
財産分与とは、結婚中に形成した夫婦共同財産を清算して分けることです。
夫婦は共同生活をしている間、協力して一定の財産を形成しますが、夫婦それぞれの名義になるものがほとんどです。
しかし、夫婦どちらかの名義の財産とされるものでも、その実質は相互に協力をして築かれるものです。
よって、相互扶助により形成維持された財産は、離婚の際に、貢献の割合に応じて清算されるのが普通です。
近年、一般的には5:5で分配されることがほとんどとなっています。
ただし、財産分与は当事者双方の一切の事情を考慮します。
そのため、財産形成に対する貢献度が極端に違うと客観的に認められる場合は、5:5以外の配分が認められることもあります。
また、婚姻以前から所有する財産、あるいは夫婦にどちらかが相続により取得した財産であっても、その維持、発展に相手方の貢献があったとみなされるとき、財産分与の対象と認められることもあります。
※夫が相続した不動産の管理を妻が行っており、一定の収入を得られるようメンテナンスしていた、など
加えて、後述しますが財産分与は慰謝料的な性質を含むこともままあり、各夫婦の事情により大きく左右されるため、厳密な相場を算出することは困難です。
協議で決める場合
財産分与を確実に受け取るためには、一括払いにすることです。
分割払いにするときは、初回の支払額をできるだけ多く設定するようにします。
支払の期間、支払金額、支払方法について具体的に決めておく必要があります。
※当事者間で話し合って取り決めたことは、「離婚協議書」などの合意文書として書面に残しておくようにします。
※個人の合意文書だけでは法的な強制執行力はないので、合意内容を強制執行認諾文付きの「公正証書」にしておきましょう。
決まらない場合はどうすればよいか
夫婦の協議で決まらない場合には、家庭裁判所に財産分与請求の調停を申し立てます。
調停が不成立であれば、手続きは移行して審判になります。
離婚訴訟を提訴する場合は、財産分与の申立ても合わせて地方裁判所にすることができます。
婚姻中の財産とは
結婚中の財産は、一般的に以下の3つに分類されています。
財産分与の対象となる財産は、「共有財産」と「実質的共有財産」です。
「特有財産」は財産分与の対象にはなりません。
※特有財産でも配偶者がその財産の増加に貢献しているような場合、分与の際にこの寄与度を考慮することになります。
財産分与の法律的な性質
財産分与というのは、婚姻中にお互いが築いた財産を清算することですが、法律的に財産分与が意味する範囲はたいへんに広く、法律的に認められている財産分与の性質は次のとおりです。
▼扶養的財産分与
清算的財産分与の対象となる財産がない場合、扶養的財産分与の請求を検討します。
この場合、自分の生活収入で生活できるようになるまで何年くらいかかるか、その間、生活費としていくらくらい必要かを離婚前の生活費を参考にして考えてみる必要があります。
扶養的財産分与が認められる基準としては、自立の援助のほかに、高齢である、病気である、子どもの監護のためなどがあります。
子どもの監護で認められる場合は、子どもを引き取り監護することで本人の経済的自立が困難になるため扶養が必要であると判断されるからです。
精神疾患などを負った配偶者への扶養的財産分与では、その配偶者が死亡するまでというかなり長い期間の支払いが命じられることもあります。
清算的財産分与ができなくても、扶養的財産分与では分与の義務を持つ配偶者に扶養能力ががあるかどうかが問題となるため、その配偶者が持つ財産が対象となります。
扶養の能力があることが必要ですので分与の義務があっても資産がない場合には、認められないこともあります。
いつの時点を基準として財産を評価するか
最高裁判所は、裁判上の離婚で財産を評価する時期は、審理を終えたときとしていますので、離婚の時点を基準とするということになります。
長期間別居した後に離婚することになったため、別居を始めたときと離婚するときの財産額が変わってしまったような場合、どちらの時点で財産を評価するのでしょうか。
「清算的財産分与」では、その財産の評価時期は別居時までさかのぼり、別居当時の評価額が適用されます。
別居後にそれぞれが取得した財産は分与の対象にはなりません。
「扶養的財産分与」の場合には、財産の評価時期は離婚の成立時とするのが妥当だとされています。
財産分与の割合
清算的財産分与の対象となる財産が決まると、次に清算の割合(寄与度)をどうするかが問題となります。
大部分の判例は、夫婦がその財産の形成にどれだけ寄与したかによって割合をきめています。
財産分与はいくら請求できるか
財産分与の額については、一定の考え方はありますが、婚姻期間が何年でいくらといったような一定の基準はありません。
あくまでその家庭の事情にあったケースバイケースで決めるしかないのです。
しかし、一般的に言えば、婚姻期間が長くなれば、それだけ夫婦で築いた財産も多くなることから高額化します。
基本は、当事者の話し合いによるわけですから、当事者が納得すれば、どんな評価をしても、どんな分け方をしてもいいのです。
財産分与の対象となる財産には何があるか
夫婦のうちいずれかの名義の預金は財産分与の対象か
夫婦のうち個人の名義の預金が、結婚前に貯蓄したものである場合、財産分与の対象にはなりません。
ただし、結婚後、双方の収入をあわせて1つの家計として管理し、預金をどちらかの名義で行っていたような場合、その管理口座に婚姻前の貯蓄を入れてしまっていると、はっきりと区別がつかなくなってしまいます。
結婚した期間が長ければ長いほど、その区別はあいまいになり、財産分与の対象となる確率は高くなるでしょう。
結婚しても双方にそれぞれ収入があり、生活費をそれぞれ負担して、後は自分で管理して預金していたような場合には、それぞれの預金はそれぞれの財産と考えることもできます。
しかし、結婚生活では、お互いに有形・無形に協力しあって財産をつくり上げることが考えられますので、
財産分与に際しては名義人だけの預金かどうか区別は難しくなります。
この様な場合には、双方名義の預金をあわせて、それを2人の共有財産と考え財産分与の対象とすることもあります。
それを避けたい場合は、結婚している最中にも丁寧に財産の管理を行うしかありません。
入籍前の同棲期間中に貯めた財産は財産分与の対象か
財産分与の額および方法を決定する基準は、事実上の夫婦共同生活の有無という実質的基準になります。
夫婦関係の実態のある限り、内縁関係であったとしても財産分与はみとめられることになるのです。
財産分与の対象になるか否かは、その財産が事実上の夫婦共同生活でつくられたものかどうかで決まり入籍したかどうかは関係ありません。
「へそくり」は財産分与の対象か
「へそくり」は、夫婦共同生活のための預貯金と同じ性質ですので、財産分与の対象になります。
しかし、例えば夫婦のどちらか一方が浪費しているのに対し、もう片方が生活を切り詰めて貯めたような場合には、貯めた側の特有財産と認められる可能性もあります。
客観的にこれを認められる証拠を用意するといいでしょう。
不倫をした相手には財産分与しなくてもよいのか
財産分与とは、夫婦が協力して築きあげた財産を清算するということです。
不貞行為によって夫婦関係が破綻した場合であっても、それまでの相手の寄与度に応じて、財産分与をしなければなりません。
住居を購入する際、夫の両親に出してもらった頭金は財産分与の対象になるのか
夫婦が家を購入する際、そのどちらか、あるいは両方の両親から、頭金に出資をしてもらえることもあります。
この場合、マイホームを建てたのち夫婦が離婚するのなら、両親から受けた援助分を差し引いたものが共有財産として処理されます。
財産分与の対象となるのはこの部分です。
しかし、一般的に住宅の価値は、新築した後は下がっていきます。
現在の評価額から援助してもらった金額をそのまま差し引くのか、それとも下落した分の割合をかけて援助分を差し引くのかは諸説あるため、話がややこしくなりやすい分野です。
基本的には専門家に相談したほうが良いでしょう。
財産分与に税金はかかるか
財産分与の額が、夫婦が協力して得た婚姻中の財産の額や社会的地位からして、夫婦共有財産の清算として相当な額であれば、贈与税は一切かかりません。
支払う側の税金
現金で支払う場合には、課税されません。
現金以外の物で分与する場合には、譲渡所得税という税金がかかります。
不動産を財産分与した場合、所得税法にいう資産の譲渡に当たるとして、譲渡所得税がかかる場合があります。
いくら課税されるかは、一般の譲渡所得税の計算によります。また、株式、ゴルフの会員権などを譲渡した場合にも課税されます。
※親などに支払ってもらうと、親からの贈与を受けたとして、贈与税が課せられることもあります。
※不動産を譲渡する側は所有権の移転費用が必要になります(費用をどうするのか話し合う必要があります)。
移転費用は司法書士に確認します。
受け取る側の税金
財産分与を現金で受け取る場合には、所得税も贈与税もかからないのが原則です。
※不動産を譲渡される側は、譲渡された後で不動産取得税がかかります。
不動産取得税は都道府県税事務所で税額を確認します。
▼例外
一切の事情を考慮しても財産分与として分与された財産額が多すぎる場合は、その多すぎる部分について、贈与税がかかります。
贈与税を免れるために離婚を手段として財産が譲渡された場合。この場合、贈与があったとみなされて、贈与税がかかります。
※調停・審判・裁判の場合は非課税となるのが一般的で、協議により分与が決められた場合にも、よほど誰のめにもおかしいという場合以外は非課税になります。
居住用不動産の財産分与(1)財産分与として渡す場合
居住用不動産については譲渡所得について「3000万円の特別控除」と「居住用不動産の軽減税率適用」がありますので、財産分与として居住用の不動産を譲渡した場合もこの特例の適用があります。
この特例を受けるためには、親族以外への譲渡が要件となっていますので、離婚して親族ではなくなった後に財産分与として不動産を渡す必要があります。
※居住用不動産の譲渡の3000万円の特別控除(売却利益が3000万円以内の部分は無税です)。
※所有期間が10年を超えていれば居住用不動産の軽減税率適用の特例を受けることができます。
居住用不動産の財産分与(2)財産分与のために売却する場合
居住用不動産については譲渡所得について「3000万円の特別控除」と「居住用不動産の軽減税率適用」があります。
居住用不動産の財産分与(3)婚姻期間が20年以上の夫婦の場合
※婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、居住用不動産を贈与しても引き続き居住するときは、基礎控除110万円のほかに2000万円の配偶者控除がありますので2060万円まで非課税です。
居住用不動産の財産分与(4)ローン付居住用不動産
住宅の時価から分与時のローン残債を差し引いた残りの額が財産分与の対象になります。
例えば、住宅の時価が5000万円で、夫名義の住宅ローンが3000万円残っていたとすると、5000万円から3000万円を差し引いた残りの2000万円が財産分与の対象になります。
寄与度が二分の一とすると、夫婦それぞれの財産分与額は1000万円ということになります。
離婚の財産分与請求権の時効
離婚が成立した日から2年以内に請求しなければ無効です。
※離婚が成立した日とは、協議離婚では離婚届が受理された日、調停離婚では調停が成立した日、審判離婚では審判が確定した日、裁判離婚では判決が確定した日です。
離婚後も財産分与の請求はできるか
離婚した後も時効にかからなければ請求できます。
しかし、財産分与を決めずに離婚するのは危険です。
いったん離婚が成立した後には、相手方がなかなか財産分与の話合いに応じず、応じたとしても額を低く値切られることがありますので、財産分与を請求するのであれば、離婚が成立する前に請求するべきです。
また、財産分与が決まるまでに時間がたってしまうと、相手が勝手に処分したり、売却する恐れもあります。
この場合、権利としては請求できても 実際問題として実現できなくなることがあります。
協議できない場合には、家庭裁判所に調停・審判を申し立てましょう。
一度放棄した請求権は取り戻せない
離婚の時に「離婚に関する債権債務が一切ないことを相互に確認する」「今後名目の如何を問わず、一切の請求をしない」という約束をしていると、詐欺や脅迫によってそうした約束をさせられた、あるいは重大な思い違いをしていたなど特別の事情がないかぎり財産分与の請求はできなくなります。
離婚に際して財産を隠そうとしている場合の対処法
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